MIKI's Life

2つの顔を持つ家

ご主人はビルトインガレージで趣味に没頭し、
奥さんはナチュラルカントリーのインテリアを楽しむ。

男の夢が形になった、桃源郷のようなガレージ

駐車場には旧車のセドリック、ガレージにはマニア垂涎の「70カローラ」と呼ばれる55年式カローラ、そしてオフロードタイプのバイクと
カバーがかかったままのバイクとおぼしき物体。さらに、この家の大黒柱かと思えるような存在感を放つ真っ赤なチェーンブロックが鎮座し、
周りにはプロのメカニックが愛用する一流工具メーカー・スナップオンの工具ケースがずらり。
バイクと車が好きで、ビルトインガレージにこだわった家だと事前に聞いていたが、メカニックのピットインガレージと言った方がしっくりくる、
想像以上に本格的なガレージがそこにあった。
聞けば、肇さんの職業は車関係で、以前は整備を担当していたそう。
「今は整備の仕事から離れているので、工具を扱うのはプライベートだけ。完全に“趣味”だと言えるようになりました(笑)」
仕事にかけていた情熱を趣味だけに注げるようになったからこそ、この設備を整え、ガレージ中心の家を建てることにしたのだろう。
「いいえ。実は、元々この場所に作業小屋を持っていて、この設備もそのときからあったもの。すべてをそのまま生かして家を設計していただいたので、
作業小屋のサイズもチェーンブロックの位置もあまり変わっていません」
なんと、整備の仕事に携わっていた頃から、このプロ仕様の設備は整っていたらしい。しかも、元々あった作業小屋をベースに設計されたとは。
想定とはかなり経緯が違ったが、これは『ガレージを中心にした家づくり』の究極の形ではなかろうか。

趣味は深く、広く。ガレージがあればすべての趣味を同時進行で楽しめる。

「でも、2つ変わったところがあります。ひとつは、ただのむさ苦しい作業小屋が、おしゃれなショールームのようなガレージになったこと。
そしてもうひとつは、僕の意識。物置のように扱ったりしなくなりました。見られることを意識して常に整理整頓。
無駄な物は一切置かないようになりました」
肇さんが言う通り、いくつかある工具ケースの上は、工具やフィギュアなど細々した物が置かれてはいるが雑然とはしておらず、
ディスプレイされている といった印象。逆に壁際の作り付けの棚には、収納ケースが整然と並んでカチッと美しく収まっている。
だからこそ工具ケース周辺の、無造作感が醸し出されたディスプレイが引き立ち、カッコいい男の城というイメージを与えているのだ。
おしゃれに生まれ変わったガレージに、もちろん肇さんは大満足。
「好きなメカいじりをただやっていただけの男臭い場が、好きな物に囲まれた男の城になりました。
以前よりもガレージにいる時間は多くなりましたが、他の趣味を楽しむ時間も多くなったという感じ。本当に毎日楽しいです」
ガレージを満足気に見ながら話す肇さんは、今日は何をしようかと考えているようなワクワク感に満ちあふれていた。
そこでようやく、最初から気になっていたカバーがかかったままの、おそらく、バイクの存在。
「これですか? 製作中のバイクです」
肇さんは何度驚かせてくれるのか。確かにプロの整備士だから、整備はお手のもの。
本格的なメカいじりが趣味であることは理解できるが、 まさか、作るところからとは思わなかった。
「昔乗っていたバイクの部品がいろいろ残っていたので、自分仕様のバイクを作ってみようかと、ちょっとした遊び心で始めたんですが……。
プラモデルや車も好きだし、その時々でマイブームがあって、あっちの趣味こっちの趣味とやっているものだから、
バイクだけに没頭しているわけではなくて。だから作り始めてかれこれ10年くらいになりますけど、未だ完成が見えてこない。
一応、ヤマハのRZができる予定です(笑)」
これまた、バイク好きが涙して欲しがりそうな代物。ぜひ肇さんの手で復刻されたRZを見てみたいものだ。
「いつできるか、僕にも分かりません(笑)。でも、いつかは形にしたいですし、乗れるようにもしたい。
ここにある70カローラも、ゆくゆくは もう一度乗れるようにしたいと思っているので、どっちが先か僕自身も楽しみです」

インテリアの統一感を損なわない、ご夫婦の暗黙のルールとは?!

ガレージ談義が一区切りついたところで、2階へと案内される。鈴木邸のリビングは2階にあるのだ。
家の中に案内された瞬間に感じたのは、ギャップ。スタイリッシュなガレージとは真逆の、ナチュラルでやさしい雰囲気が漂う住居部分。
全く別の建物にいると思えるほど雰囲気が違うのだが、不思議と違和感はない。
オンとオフのスイッチが切り替わるように、頭の中も心も すぐにこのやさしい空間に馴染んでしまった。
案内されたリビングで、大きな3本の梁に目を奪われ、しばらく無言で見上げていると、久枝さんが話を切り出してくれた。
「吹き抜けと梁、シーリングファン、そしてハンモック。このリビングの空間は私の要望が叶った形なんです。
ナチュラルな雰囲気の家にしたかったので、床の材質や幅、塗り壁、色などもこだわりました」
久枝さんの言葉で、先ほど感じたギャップの真相に気がつく。鈴木邸は、ご夫婦それぞれの夢を叶えた家のようだ。
もちろん、肇さんがガレージで、久枝さんが住居部分で。
しかも、それぞれが独立しているのに絶妙なさじ加減で調和が取れていて、一体感さえ感じる。
「リビングは家族の空間。だから、ガレージが半分以上を締める1階にリビングをつくる考えは私の中に1ミリもなくて、
住居のメインは2階と決めていました。実際、こうして良かったと思っています」
中でも、リビングが私物で溢れないこと、特にお子様たちが私物をきちんと自分たちの部屋に片付ける習慣がついたことは、
うれしい誤算だったようだ。
「子ども部屋も2階で、リビングと目と鼻の先。多くのお宅は1階にリビング、2階に子ども部屋があると思いますが、
階段を上って片付けるというのは、 子どもにとっては大変なのでしょうね。
ある意味、リビングにある子どもの私物が片付かないのも仕方ないのかなと。 その点では、私が想像していた中にはなかった、
うれしい誤算とも言えますね。子どもがいるのに、この空間がイメージ通り保たれているのは、 ちょっとした奇跡かも(笑)」
2人の息子さんがいればそれなりに物は多くなる。
実際、上手に隠す収納と見せる収納を使い分けてはいるものの、一般的なお宅と同じくらいに“物”はあるように見える。
けれど、そう見えないのは私物がひとつもないからだと気がつく。
『私物は持ち込まない。持ち込んでも片付ける』が鈴木家のルールのようだ。 もちろん、ご主人の私物も全く見当たらない。
「主人にはあれだけ大きな収納があるんですから、リビングに置き場所は必要ないと思うんですよね。
でも足りないからと、 ガレージとつながっているインナーバルコニーもいつの間にか主人の部屋になっているし……」
久枝さんの言葉に、肇さんが「あれは書斎が欲しかったから」と反論するが、苦笑いで返されている。
『住居部分にご主人の趣味は持ち込まない』
これがご夫婦の暗黙のルールだと、久枝さんが目だけで教えてくれた気がした。

自分好みの空間づくりは、設計中と建築中のマメさがカギ。

ご夫婦の会話と空間にすっかり和んで周りを見渡していると、この空間に目を奪われて見落としていた小さなこだわりが見えて来た。
天井近くの壁にある小さな明かり取りの窓、システムキッチンをナチュラルに見せる木のカウンター、作り付けの棚、そして家具のサイズ感と位置。
どれもが計算され尽くされていると分かる。
「作り付けの家具だけでなく、新居に持ち込む家具のサイズや配置も、設計時に盛り込んで、徹底して統一感とナチュラル感を重視しました。
あの小窓ですか?あれは設計当初にはなかったんですけど、いいでしょう?あそこから月が見えるときがあって、それがとってもキレイなんです。
思わぬサプライズだったねって、主人とときどき眺めながらまったりしています」
そんな話を聞きながら、少しまったりしているところに、肇さんが撮影スタッフに呼ばれてガレージへと降りて行く。
その間、久枝さんとふたりだけで話をすることになり、こだわりの飾り棚などを見せてもらいながら、思わず盛り上がった女子トークの中で
久枝さんの感性とセンスの源を知る。 学生の頃からナチュラルカントリー系のインテリアに惹かれ、本や雑誌を見ては夢を膨らませていた久枝さん。
「建て直したいとは微塵も思わない」と 断言するほど、イメージ通りに具現化できたのは、
少しずつ磨かれてきたセンスと蓄積されてきた知識の賜物だった。 さらに、飾り棚など細かなところでインテリアコーディネーター並の
センスあるディスプレイや小物のチョイスは、雑貨屋に勤めていた頃に培った経験値からくるものだったのだ。
「こういうちょっとしたところに気がついて褒めてもらえると、すごくうれしい。建築中の家に1週間に2日ほど足を運んでいたのですが、
内装などが始まってきた頃、『ここに飾り棚があると素敵だなー』とか、細かいところで追加したいものが増えていったんです。
その度に幹さんに相談しました。ちょこちょこお願いしたワガママを叶えてもらって、本当に感謝してます」
そして、建築中も様子を見に訪れ、細かい部分をテコ入れ。
「イメージを持ち続け、ちょっとしたことも遠慮せずお願いして本当に良かったと思います。今はまだ子どもたちのことで手一杯ですが、
ゆくゆくはもっとインテリアにこだわって、本や雑誌で見た本格的なナチュラルカントリーの家に仕上げていきたいと思っています」
久枝さんの夢の家はまだまだ発展途中。将来の鈴木邸をもう一度訪れてみたいと思うほど、久枝さんの目は輝いていた。

プライベートと家族の時間を大切に。深い絆を感じる家族のカタチ。

鈴木家の日常は、それぞれの空間でプライベートを満喫し、リビングでは家族の時間を大切にするスタイル。
プライベートでは楽しんでいることも、居る場所も違うのに、それぞれの楽しみと時間を共有しているように見える。
「家を建てる前、主人は趣味の度に、住まいから作業小屋まで“出掛ける”ことになり、どうも後ろ髪ひかれることが多かったようなんですよね。
けれど、家を建ててからはお互いがそういった気持ちにならなくなって、ガレージに籠る時間は多くなったのに、一緒にいる時間が
長くなったように思えるんです。子どもたちとも、そう。屋根裏がついた子ども部屋は秘密基地のようで楽しいのか、家の中で遊ぶことも多いのですが、
姿が見えなくても安心感がある。目が届かなくても、隣にいなくても、いつも一緒にいる気がしています」
お互いのプライベートを尊重するという言葉は、マイナスに捉えられることが多いが、久枝さんの言葉からはプラス要素しか見当たらない。
それどころか鈴木家全員が、それぞれの時間を大切にすることが当たり前であるように見える。
だからといって、自分のプライベート空間に招き入れないわけではない。常にオープンにして常に行き来しているし、
息子さんたちはガレージも巻き込んで“秘密基地の家”を楽しんでいる。
家を建てたことで、プライベートが確保されたと同時に、心の距離は逆に近づき、絆が深くなる。こんなステキな家が、家族があるだろうか。
「幹工務店さんにお願いしなければ、いろんなことが実現しなかったし、気付かなかったかもしれません」
理想の家は、家族の絆を育んでいくものだと、家を建てる本当の意味を鈴木家のみなさんが教えてくれた。

Writer:茂木 美佐子/ Photo:indigohearts/ Design:tekuiji DESIGN
Produced by tekuijiDESIGN